9.11から20年

  大惨事の半年後、わたしはグラウンドゼロに立っていた。
  ニューヨークには学生時代の友人(石橋君康くん)が住んでいて、日本山妙法寺という寺の住職をやっている。その彼からグラウンドゼロの模型をつくってくれ言われ、ニューヨークを訪れたのだ。彼はそれを鎮魂のシンボルにしたいと考えていたらしい。
  といっても倒壊したツインタワーは高さ417メートルもあり、もし400分の1でつくったとして、高さ1メートル以上になる。それが砕け散った状態がグラウンドゼロなのだから、ベースは最低でも2メートル四方は必要だろう。よしんばつくったとして、それをどうやって運ぶのか。
  とても自分の手には負えぬと判断し断ったが、とにかく一度現場を見てくれと非常に強く促され、この日そこへ行ったのだ。
  その前夜、彼の寺の祭壇に供えられていたジャガイモほどの大きさの、片側が熱で溶けたガラスの塊(かたまり)を3個見せられた。その日の朝、空から降ってきた窓ガラスの破片である。手にとるとドスンと強い衝撃を受け、瞬時にそのときの映像がよみがえった。自分も一個ほしいとおもったが、さすがにそれは言い出せなかった。
  そんなことを考えながらわたしは現場に立っていた。
  そこには正にグラウンドゼロといった風な、巨大な凹みがあり、その日掘り起こされた残土が目の前まで運ばれてきて、高く積み上がっていた。
 「あの土の中に絶対ガラスが混ざっている!」
 そう確信したわたしは、見張りがそっぽを向いたすきに素早く残土に近づき、両手いっぱいに掴み取り、ポケットにしまった。案の定土の中には消しゴム大ほどのガラスの破片が混ざっていて、大切に持ち帰り、仏壇の引き出しにしまった。
  ——–と、ここまで書いて、写真を撮るために、あらためて仏壇を探したら、ガラスがない! あせってあちこち探したが、やっぱりない。仕方がないので20年前の石橋くんの写真を掲載する。(下)。

中央の日本人が石橋君康上人。彼は寺の坊さんだが彼の寺に墓はない。彼はいわば仏教の伝道師で、世界中に点在する日本山グループのニューヨーク支部長みたいなことをやっている。15年ぐらい前、渋谷クラフト倶楽部のメンバーら10数名で遊びにいったことがあるし、その後も杉ちゃんらと度々お邪魔しているので、知ってる読者もいるはずだ。

「ニコレットの居酒屋」

「ニコレットの居酒屋」って作品、知ってますよね。
 あれ、売れました。
 人がうじゃうじゃいるところで催事をやると、黒山の人だかりになり、いつもこの作品が人気ナンバーワンだった。しかしマスクの時代じゃぁもう催事はなさそうだ。だから売るのはやぶさかでないし、もちろん非常に嬉しいが、買った方が置き場にこまるんじゃないかと心配し、こちとらは若干消極的販売姿勢で構えていた。そしたら先日買い手がブツを取りにみえ、すでに持ち帰ってしまった。そのあと「あ〜オレも買いたかった〜!」というおじさんがあらわれたりして、実は意外と混戦(?)だったのかも。
 下の写真、左がゲットしたご本人M氏、中央が奥さん。
 「あ、この人、知ってる!」
 ってひと、いっぱいいるだろう。
 ——Mさんありがとう!!!

写真の中央に「ニコレットの居酒屋」(1/12)が。
本作は禁煙補助剤「ニコレット」のテレビCMの背景として制作され、2007年11月に完成した。ただちにCM映像が制作され、このときつくられたCMはその年の年末から翌年の年始かけてしきりに放映された。その映像を見たいとM氏から言われ、いま懸命に探している。捨てたハズはないのでもう少しお待ちください。
 

「トキワ荘の時代」

  1995年に公開された「トキワ荘の青春」(監督:市川準)という映画がある。20年前に最初のトキワ荘をつくったとき資料としてDVDを渡され10回以上みたが、何回みても見飽きることのない素晴らしい作品だった。
  その映画がいま、初公開から25年のときを経て、デジタルリマスター版に修復され、全国の映画館でリバイバル上映されている。わがねじ式チームのボスが営む「モーク阿佐ヶ谷」でも先月上映されていたので、わたしの教室からも数名が見に行き、大感動した旨をSNSに綴っていた。また9/15日にはブルーレイディスクも発売されるそうで、こちらの映画がいま静かなブームになっていることは間違いなさそうだ。
  そしてこの映画のヒントになった「トキワ荘の時代」という本がある。
  梶井純というマンガ史研究家が、当時のトキワ荘の様子を克明に調べ、マンガ家ひとりひとりの心のヒダまでを丹念に読み解いたトキワ荘ファン必携のドキュメンタリー本である。1993年に初版が発行されたが、その後いつしか絶版となり、いつのまにか忘れ去られていた。しかし去年、トキワ荘ブームの追い風を受けて、27年ぶりにリバイバル出版されることになった。
  その2ヶ月前。
「小社の刊行物の表紙に芳賀さまの作品の写真を使用させて頂きたく、お願い方々ご連絡させていただきました」
 というたいへん丁寧なメールが筑摩書房から届いた。再出版するにあたって表紙のデザインを一新することになり、拙作に白羽の矢が立ったというのだ。そして2020年2月に、めでたく写真のような本が出来あがった。表紙は拙作より石ノ森章太郎の部屋が使われ、ページをめくるとたちまち昭和の時代がよみがえり、そこであなたはトキワ荘のテラさんと会うことができる。素晴らしい本である。映画に感動したら是非こちらの本もお読みになってください。もちろんアマゾンで買えます。(なお本書については2020/2/7日付けの当欄にも記事があります)。

表紙の写真は宮城県石巻市の「石ノ森萬画館」に展示中のトキワ荘より「石ノ森章太郎の部屋」。撮影SATOFOTO。縮尺1/15。奥のふすま絵は水野英子先生がお描きになり、書籍はままやさんがつくり、電気スタンドは佐野さん、右手の火鉢はサブローさんなど、いろいろな方々の協力を得て制作された。2001年制作。

スカルファー作品修理完了

 前々回ちらっと書いた故デビッド・スカルファー氏の作品修理(タマ切れ電球の交換)は、予想したとおり、カンタンな仕事ではなかった。
 今回二作品お預かりし、タマ切れはぜんぶで9箇所あった。
 クルクルっと回して切れたタマを取り外し、新品と入れ替えるだけのことだが、なにしろ手がまったく入らない箇所での交換である。ときには作品をバラしなから、悪くいえばぶっ壊しながら取り組むしかなく、非常に神経をつかう仕事だった。また、街灯のような照明の場合、まずは四角い街灯カバーを外さぬと電球がとりだせないのだが、つくってからの年月がたった作品ゆえ、まったくカバーが外れない。仕方がないので街灯の真裏に小さな穴を開け、極小のLED照明をその穴に突っ込み、切れた電球の裏側から光らせた、等々、等々、臨機応変にそんなことをやりながら、最終的にはぜんぶの明かりを灯すことができた。
 ちなみにスカルファー氏の娘Hanaさん=この作品の所有者=からは、どんな風に電球を取り替えるのかひと目見たいというご要望があり、作品を引き取りに見えた日に、ひとつの作品を分解し、試しに一個のタマ切れ電球を、交換して見せてあげた。(下の写真)。いつか自分の手でも直せるようになりたいという一心から、そんなことを言い出したのだろう。そのときのためのミニチュア電球のタマを、彼女は自分でちゃんと持っていた。
 下の写真のあとHanaさんは修理済みの作品2点を車に積んで、自宅のある国分寺へと引き上げて行った。

上はスカルファー氏の作品(修理済み)。
フェイスブックフレンドの佐藤與市さんによると、デビッド・スカルファー氏は1932年イギリスに生まれ、舞台装置家としてロイヤル・オペラハウスなどで活躍、このとき実舞台の検証用にミニチュアの舞台をたくさんつくったそうだ。そののち彼はオランダのアムステルダムで、今度は本格的にミニチュア作品をつくりはじめた。没年についてはよくわからぬが、2010年ごろと推定される。

クラフト本第二弾!

「一冊も売れないんじゃないの‥」
 担当者にはそう告げ、以前ここで「消防署をつくる」(ミクロコスモス刊)という拙著を宣伝したことがあった。(6/26日付け当欄)。ところがギッチョン、掲載した直後に、な、なんと3冊!もの注文がはいり、その後は奪い合いの様相を呈している(ウソです)。
「めちゃくちゃよかったです!」
「ぜひシリーズ化してほしい!!」
「次は『午後の鹿骨』をお願いいたします!!!」
 などという読者からの熱い感想文までもが届き(これは本当です)気を良くした担当者は蛮勇をふるい、とうとうやっちゃいました。ババーン!!! だ、だ、第二弾は、「午後の鹿骨」だぁ〜っ★!(◎_◎;)。
 内容は、以前紹介した消防署本とほとんどおんなじだが、ハンドライティングの下手さにおいては本書がはるかに勝る。解説における説明図の幼稚性や、全体にみなぎる脱力感なども、明らかに本書が上だ。しかもこちらは全編モノクロで印刷され、あえて粗雑な紙をもちいて製本するなど、随所に光るチープな演出が冴えて、まるで終戦直後に発行された出版物を紐解くような、究極の貧しさが味わえる。それでいて値段は一冊たったの5000円(消費税込/送料別)。朗報である。購入希望者はただちに連絡をください。
 何冊あるか知りませんが、早い者勝ちです。

芳賀一洋著「1/80午後の鹿骨」。
全150ページ。A4版。格調高い毛筆体による惚れ惚れするような表紙のデザインにシビれ、思わずページをめくりたくなるだろう。微に入り細に渡っての説明に加えて工作用図面が実物大で収録されるなど、これからつくろうというひとにとっては、またとない手引書となるであろう。

デビッド・スカルファーの作品

  2005年ごろ惜しくもお亡くなりになった、デビッド・スカルファー(David Sculpher)というミニチュア作家(イギリス人)をご存知だろうか。この春横浜で開催された「灯りの魔法」と題するドールハウス展では氏の作品がメインに展示されていた。
  そのデビッド氏の娘であるハナ(Hana Sculpher)さんから先月メールが届いた。
「父の作品の電球の球が切れてしまい困っています。直せるひとを紹介していただきたいのですが‥‥」
  と、いわれても、デビッド氏の作品は、なにしろ「灯りの魔法」といわれるほど沢山の電球で彩られている。誰を紹介したらよいか、わからなかった。
  そんなひと知りませんと断ってしまえば良いものを
「どんな電球が切れたのか、写真を撮って送っていただけますか」
  などと返信しているうちにだんだんと深みにハマってしまい、とうとうおとといの晩、ミニチュア電球のタマ数十個と道具一式を車に積んで、ハナさんの住んでいる国分寺まで出かけることになった。首尾よくその場で直せたらラッキーだが、最悪の場合、作品を持ち帰って修理しようという、月光仮面的な(?)心意気である。
  ま、そういうわけで、いまわたしの横には、たいへん貴重なデビッドさんの作品が2点置いてある。かんたんに引き受けてしまったが、これは非常にむずかしい仕事になりそうだ。来月末までには直してさしあげると約束したものの、はたして大丈夫か、少し心配になってきた。
  写真の中央が作品で左がハナさん。
  (当日ご同行いただいたK氏に御礼を申し上げます。)

もう10年以上も前のこと、あるドールハウスショーの会場で、デビット・スカルファーさんのご子息であるダンカン・スカルファーというひとから声をかけられた。なんとダンカンさんは拙作のファンで、東京に住んでいるという。このたびメールをくださったのはその妹さんだと思う。なんでスカルファー兄弟が日本に住んでいるのかわからぬが、とにかくハナさんはいま、国分寺で「ライトハウス」という洋風居酒屋(上の写真)を営んでいる。

怖がってます

 8日に豊島区の広報テレビ「としま情報スクエアー」に生出演いたします。この日はオリンピックの最終日に当たってますが、よかったら「としまテレビ」のほうもご覧になってください。

 *出演番組:「としま情報スクエアー」(20分番組)
 *放送日: 2021年8月8日(日)午前11:00〜11:20
 *出演コーナー:「立体作家はがいちようが語るトキワ荘のオマージュ」

 担当者からいただいたメールによりますと、
「プライベートギャラリーでのVTR(撮影済み)を見ながら、芳賀作品の魅力を紹介し、本編で、トキワ荘の制作秘話を語っていただくという流れにしたいと思っております。女性MCがお相手し、彼女の質問に答えていくスタイルになります。進行台本が出来あがりましたらお送りいたしますので、よろしくお願いいたします——。」
 だ、そうです。
【放送チャンネル】地上111ch(リモコン11ch)です。
 https://www.city.toshima.lg.jp/011/kuse/koho/channel/index.html
 テレビ生出演なんて何年ぶりだろう。
 ———かなり怖がってます。

写真は「トキワ荘」(1/15)です。
最近になって、なんだかトキワ荘がらみのはなしが多いですね。むかし書いたトキワ荘本の校正も、いまちょうどやっているところなので、そのうち本の紹介も‥。